khurata’s blog

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風に舞いあがるビニールシート (森絵都・著)

<この記事は普段フィクションをほとんど読まない私が作者や作品などの情報・評判を全く知らずに、ただ作品だけを読んで好き勝手に書く読書感想です>

 表題作品含め6篇を収めた短篇集。 著者が最も力を入れたであろう表題作は、ビニールシートという譬えが、著者以外の人の言葉の借り物という感じが拭えず、そこに嘘臭さがまとわりついてしまうのを私はどうにも出来なかった。 また表題作の主人公は最後にアフガン行きを志願するのだろうという先行きが途中から読めてしまい、そのためにラストの感慨が小さなものになってしまう。 また登場人物達も、話の都合のために作られたキャラクターにしか見えない。

 『器を探して』は読後、特に何も残らず。

 『ジェネレーションX』は良くあるパターンの世代間交流の話だが、最後の一文はちょっと面白い。

 『犬の散歩』はどうという事の無い、ちょっといい話。

 『鐘の音』はくどくどとした内容から想像できないコミカルな落ち。

 しかし『守護神』はなかなかに印象深い。 作中の時間経過は短く、仮に映像化すれば30分保たせられるかどうかだが、何と言っても「ニシナミユキ」の存在感が異様に際立っている。 このキャラクターの立たせ方は尋常ではない。 私には彼女が「綾波レイ」の声で喋っているように思えてならなかった。 落ちも秀逸だ。

 これら6篇の持ち味はだいぶ異なり、これらが一人の著者の手になるという事実にはただただ感心する他無い。 丹念な資料集めにより成り立っているであろう『鐘の音』や『風に舞いあがるビニールシート』は、その労に見合う読み応えを持ってはいる。 しかしどうしても『守護神』に見られる、主人公の圧倒的喋りのパワーと、ニシナミユキのキャラ立ちの強烈さが強い印象を残す。 

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)