ご本人も認めている通り、ことの発端は阿部氏にあるのだが、いろいろと「時」や「場合」が良くなかった、という点も推察できる。 当人が読売巨人軍という、日本最古のプロ球団の現役監督であったこと。 阿部氏が率いていた巨人軍は、その日まで5連敗中だったこと。 休みの1日、阿部氏は酒を飲みながら、翌日以降の戦い方を考えてもいただろうこと。 阿部氏の目の前でたまたま娘姉妹の喧嘩が長引いたこと。 そしておそらく、阿部氏の妻はそれを止めることが出来なかったこと。 娘さんは母や友人にではなく ChatGPT に相談を持ちかけたこと。 ここ数年は、児相と警察の対応の甘さから、何人もの子供の命が失われてきたこと。 日本人は逮捕を重く考えていること……もし、これらの要素のうち、ひとつでも無かったなら。 あるいは、ひとつが少しでもマシなものであったなら。 そう思わずにはいられないが、もはや起こってしまったことはどうしようもない。
児相から連絡を受けた渋谷署は、巨人軍監督の自宅に行くのだということはもちろん分かっていたはずだし、家族の中のもめごと程度なら積極的に介入することもなかっただろう。 だいたいの家庭において、こういう理由で来ましたと警察が言えば、奥様が出て行って夫をかばい立てするのではないかと思うが、阿部氏は逮捕されていった。 これは私の単なる想像だが、そのとき、阿部氏はまだ酒が相当残っていたのではなかろうか。 そして、その様子を見た警察官は、「トラ箱」に入れてから釈放すればよいと考えたのではないか。
阿部氏が渋谷署から釈放されたのは、その翌日の午前0時過ぎである。 逮捕されてからわずかな時間で釈放されており、この時間の短さは、「事件性はきわめて薄い」という警察の判断があったことを窺わせる。 実際、警察は検察に書類送致する際、起訴しないように寛大な処置を求めている。 結果、検察は6月15日付で起訴猶予とした。 法的にはこれで一件落着だ。
阿部氏とご家族にとって大きな不幸となってしまったのは、氏が読売巨人軍の現役監督だったことであろう。 理由が何であれ、そのような人物が逮捕されたとあれば、マスコミは迅速に動く。 逮捕はイコール有罪ではないのだが、日本人や日本社会は逮捕されたかどうかを大変重要視する。
釈放後、阿部氏は球団に対して辞表を提出した。 まだ有罪かどうかすら決まっていないうちからこうした行動を起こさなければならないのは、やはり日本社会が逮捕を重要視しているからだろう。 「大川原化工機事件」や「村木事件」を見れば、逮捕されたからといって即犯罪者でないことは明らかなのだが、今も日本社会には「逮捕された人は犯罪者」というイメージが強くこびり付いている。
ただ、この形での辞職が幸いだったのは、球団からの解雇ではなかったことである。 あくまで阿部氏本人の意志と決定による辞職だ。 ネット世論では、阿部氏の復帰をのぞむ声が強いが、解雇でなく辞表提出であった点は、将来の復帰の可能性を残すものだろう。
私個人の考えとしては、阿部氏ご本人のためというより、娘さん、特にご長女のためにこそ球界に復帰してほしいと思う。 娘さんは18歳で、社会がどのようなものか、社会におけるプロ野球の「大きさ」や、野球界における読売巨人軍の「大きさ」を、まだ肌感としては知るまい。 阿部氏の自宅には多くのトロフィーや記念品が飾られているはずだが、幼少期よりそれらを「当たり前の風景」として育っていれば、かえって、その意義が実感しづらいこともあるだろう。 しかし20歳になり、30歳になり、大人になればなるほど、それらの「大きさ」を知ることになるはずだ。
そのとき、娘さんは、自分が軽い気持ちで ChatGPT に相談した結果が、いかに重く、いかに大きいものになったのかを自ら突きつけられるだろう。 ひとつの家庭を壊しかねないことだった、それだけではなく、いくら詫びようが謝ろうが、娘さんご自身が何をしようが、けっして取り返すことが出来ない、重く大きなもの……その重さに、娘さんは将来、耐えることができないかもしれない。
私が最も危惧するのは、ここである。 もちろん阿部氏は娘さんとご家族を全力で守ってゆくだろうけれども、個人が突発的な衝動に駆られた行動は誰にも止められない。
そんな最悪の事態を防ぐ、おそらく唯一の方法が、阿部氏の球界復帰なのだと私は考える。 一軍のベンチ入りとまでは行かなくても、一軍の試合の解説者でも良いし、野球関連のバラエティー番組出演でも良い。 球界の方々は、なんらかの形で、阿部氏の球界関係者としての復帰と名誉回復を図っていただきたいと、勝手ながら切に願うものである。
(了)