khurata’s blog

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二重生活 (小池真理子・著)

<この記事は普段フィクションをほとんど読まない私が作者や作品などの情報・評判を全く知らずに、ただ作品だけを読んで好き勝手に書く読書感想です>

 そういう事を始めたら、そういう事にも成るであろう、という点では特段の驚きも新奇性も無い。 しかし、そういう事を実際にやり始められるのか、となるとこれは大いに難しい。 本作の主人公は、それを初めてしまったばっかりに、今までの表層的な生き方では見つけられなかった他人の人生を垣間見、ある種の成長を遂げる。

 とは言うものの、主人公が激しく惹かれる「文学的・哲学的尾行」という行動について、読者はどこまで理解でき、感情移入できるものなのか。 そこで取り付く事ができない読者は置いてきぼりを食う。

 結局、主人公はその尾行に味を占め、その刺激無しには生きられない、一種の依存症のような状況に陥ってしまうが、それについては読者は果たして共感を持てるだろうか。

 また本作は、ソフィ・カルが実際に行ったとされる事を小説という形で再構成したものに過ぎないのではないかという疑念も湧く。 その浅薄さを糊塗するために、「武男」や「卓也」や父親、そして「篠原教授」という男性キャラクター達で主人公の周りを固めておく「小説としての必要」が生じたのではなかろうか。 

二重生活 (角川文庫)

二重生活 (角川文庫)