khurata’s blog

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幸せの条件 (誉田哲也・著)

<この記事は普段フィクションをほとんど読まない私が作者や作品などの情報・評判を全く知らずに、ただ作品だけを読んで好き勝手に書く読書感想です>

 取り立てて得意な事も、やりたい事も無く、日々何となく過ごしている東京のOLが、ひょんな事から長野の農村でゼロから農業体験していくうちに、東日本大震災を経験し、「食べるものを作り出す人こそ強い」という事に気付き、「被災した人達に安全で美味しい食べ物を作って届けたい」という使命感を持ち始め、農業に生きる幸せを見出してゆく物語である。

 上記のように書くと有りがちな小説に見えてしまうかも知れないが、登場人物いずれのキャラクターも見事に立っており、それぞれの間のやりとりも迫力が有って、つい読み進めてしまう。 著者の実体験を含む綿密な取材も見事に奏功している。

 解説の瀧井朝世氏が言うように、「幸せの条件」というものは色々有ろうが、そのひとつは「自分が求められる人材になるという受け身の生き方ではなく、自分が求めている生き方を見つけること」なのだ……という事を、本作は読者と主人公に提示している。 そして、それはおそらく、これを「書かなければならない」と語る著者自身の、作家として生きる生き方への投げかけでもあるのだろう。 つまり本作は、著者を含む全ての人に、題名通り「幸せの条件」について投げかけている作品なのだ。 

幸せの条件 (中公文庫)

幸せの条件 (中公文庫)