khurata’s blog

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もういちど生まれる (朝井リョウ・著)

<この記事は普段フィクションをほとんど読まない私が作者や作品などの情報・評判を全く知らずに、ただ作品だけを読んで好き勝手に書く読書感想です>

 20歳に差し掛かる幾人もの若い男女達が、恋、向上心、プライド、ある種の甘え、若い諦観、そうしたものに翻弄されながらも、明日を思い、今日を生きてゆく群像劇。

 特にさしたる盛り上がりや深い感動的シーンが有るわけではないのだが、この、一見とりとめの無いような、どこにでも在るような若者の日常を「読ませるもの」として呈示できる著者の力量はすごい。

 大団円が有るでもなく、ハラハラさせるサスペンスも無いが、登場人物それぞれが緩やかにつながりながら、全体としてひとつの「歴史劇」のような味わいを生んでいる。

 これは私の勝手な想像だが、この著者は、歴史ものを書いたらかなり上手いのではないかと思う。 聞くところによれば「瑞々しい感性」が持ち味だそうであるが、それは描写対象が若者だからそう見えるのであって、この著者の本領はおそらく、多くの人物の心理描写、必ずしも明確でない人間関係を、確り描き出せるところに在ると私は見る。

 それにしても著者は、学生が作る映画というものに余程閉口した経験でも有るのか、作中で語られる大学生制作映画にまつわる登場人物達の評がひどく低い。 

もういちど生まれる

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