khurata’s blog

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空海の風景 (司馬遼太郎・著)

<この記事は普段フィクションをほとんど読まない私が作者や作品などの情報・評判を全く知らずに、ただ作品だけを読んで好き勝手に書く読書感想です>

 作中において、著者は本作を小説と言うが、果たしてこれは小説の範疇に入るかどうか……これは小説と言うより、空海という一人物(いちじんぶつ)における人物史と関連人物達を縦糸に、仏教的・歴史的な事柄を横糸にして、著者の主観を交えた随想文であると私は見る。

 関連する歴史的文献の渉猟と分析の深さはさすがに著者ならではのものと唸らせる。 また、同じ事柄を、文を変えて幾度も示してくれるので、内容の硬さにもかかわらず、ほとんど後戻りする事無く読み進められる文章手腕も実に巧み。

 そして各文に香る格調は、もはや平成以後の小説家には真似できないものと思われる。 しかしこの点は、現代の若い読者を遠ざけてしまう危険を孕むが、1975年の単行本初版から、少なくとも1997年まで44版を重ねている所を見ると、「司馬」人気と「空海」人気が有るうちは意外と受け入れられ続けるのかも知れない。

 何にせよ、本作は空海という千年以上前の人物と、彼が日本列島にもたらした真言密教という当時最新の仏教について、格好の入門書でもあることは論を俟たない。

 若い人にとってはかなり読みにくい作品かとは思うが、漢和辞典をお供にすれば読みこなせるであろう。 未来へ読み継がれて欲しいと強く思う秀作である。

空海の風景〈上〉 (中公文庫)

空海の風景〈上〉 (中公文庫)

 

  

空海の風景〈下〉 (中公文庫)

空海の風景〈下〉 (中公文庫)