khurata’s blog

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悪の教典 (貴志祐介・著)

<この記事は普段フィクションをほとんど読まない私が作者や作品などの情報・評判を全く知らずに、ただ作品だけを読んで好き勝手に書く読書感想です>

 『ジョジョ』の「吉良」、『MW』の「結城」のように、智に長け、他人を操る才に秀で、加えて「選択肢に制約を設けない」という行動指針によって、自らの求める自由や快楽を追い求める人物は、「選択肢に良識や法律で制約を設ける」普通人にとってダーク「ヒーロー」と言える。

 本作の主人公「ハスミン」もそうしたダークヒーローである。 彼は一種の精神障碍者であり、生まれた時から共感能力と感情に欠ける(この点だけは『コンビニ人間』の主人公と似ている)代わりに、並外れて優れた論理思考力と観察力を備えていた。 彼は自らに欠けている共感力を自覚し、自らの努力で演技として身に付けていくうちに、心理学や人心掌握術についての膨大な知識を得て、ますます「自由に生きる道」をエスカレートさせてゆく。 遂には自らの自由のために14歳で両親を完全犯罪で殺害するのだが、彼が人知れず殺害した「邪魔者」は他に数十人を下らないであろう。

 当初、ハスミンは特に何の変哲も無い人物として描かれる。 しかし、カラスを電殺した辺りから、おや、この男、おかしいぞ……と予感させられる。

 また、とても多くの人物が登場するにも関わらず、読みやすく書き分けられている筆力は見事である。

 内容的には胸糞悪くなる小説なのだが、「邪悪の表現」を追求する事は、作家・表現者としての正々堂々たる挑戦である。 我々がこれを受け容れられるか、られないか、その総意は、我々の国家が表現の自由を保障するかどうかにつながってゆく。 いかに悪趣味であろうと、いやさ、きわめて悪趣味だからこそ、この作品は読み継がれるべき作品なのだろう。 

悪の教典(上) (文春文庫)

悪の教典(上) (文春文庫)

 

 

悪の教典(下) (文春文庫)

悪の教典(下) (文春文庫)