khurata’s blog

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桐島、部活やめるってよ (朝井リョウ・著)

<この記事は普段フィクションをほとんど読まない私が作者や作品などの情報・評判を全く知らずに、ただ作品だけを読んで好き勝手に書く読書感想です>

  17歳の高校生達が、各自の心の動きを自ら語るという形で進行する青春群像物語。 本作の中で語られる物語そのものは別段どうという事は無い。 大事件が発生するでもなく、謎解きが有るわけでもない。 しかし彼らが自分自身の心の動きを追う作者の言葉運びは実に淀みなく滑らかで見事の一語に尽きる。 心の動きを言語化・文章化すれば、そこには必ず遅れが生じる(この点を『四日間の奇蹟』(浅倉卓弥・著)は「真理子」の喋りという形で解決している)。 しかし本作はその遅れをあまり感じさせない文体を持っている。 リアルタイム性を感じさせる文を読むことにより、読者は彼らの心理をリアリティを伴って追体験できる。 この小説文体は本当に素晴らしい。

 本作では高校のスクール・カーストの「上」と「下」それぞれの視点と心理も描いている。 解説で吉田大人氏が述べている「ひかり」が、「下」の生徒から発せられていることを「上」の生徒が感じ取ってしまうシーンは本作の圧巻だと思う。 ここで、「上」の生徒は人間としての小さくない成長を遂げる。

 また、亡父の再婚相手の義母を受け入れてゆく少女の心理描写も見事なもの。

 本作をわずか19歳の作者が完成させたことは相当の驚嘆に値する。 天才と言って差し支えないのではないか。 

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

 

 勝手に正誤表

文庫版 第20刷 P.255 「有吉佐和子 仮縫」が2つある。