<この記事は普段フィクションをほとんど読まない私が作者や作品などの情報・評判を全く知らずに、ただ作品だけを読んで好き勝手に書く読書感想です>
……という上掲の定型文に関して言うと、私は本作を読むまで「有川浩」を「ありかわ・ひろし」だと思っていたし、当然男性だと思っていたくらいである(汗)。
それはさておき。
本作は、主人公である男女の出会いがいかにも作り物めいていて不自然なのだが、著者はあとがきで公然と「落ちもの」と言っているし、その不自然さが欠点だと言うのなら、『天空の城ラピュタ』も成り立たなくなってしまう。 つまり本作は「落ち物ファンタジー」である。 まあ、そもそもの話として「落ちもの」は全てファンタジーなのかも知れないが。
(「イツキ」が高名な華道家の跡取りで草花に博識、料理上手、家事もソツ無くこなし、イケメンでセックスも上手い、という設定も、著者がファンタジー作品であることを目指した結果と思われる)
題名に偽り無く、男女二人の突然な恋物語は、種々の草花の詳細な描写と共に進んでゆく。 著者の徹底した下調べ・知識・観察によって、劇中の舞台である町、そこに生きる男女二人には相応のリアリティが与えられ、ファンタジーっぽさを見事に中和している。
解説の池上冬樹氏が語る通り、「さやか」の1年間の心情が、イツキによって育まれた植物の知識から得られた観察によって、かつての同棲生活をていねいにトレースして綴られていくくだりは見事。 このまま、さやかは独りで1年1年を繰り返して老いるのではないかと心配してしまうほどであった。
ファンタジーの香りをさせつつも、最終的に婚姻届けが出てくるあたりは「女性版ファンタジー」のリアリズムを感じさせる。 おとぎ話のラストは「お姫様は王子様と結ばれ」なくてはならないのだろう。
エピローグも、何と言うことは無い話なのだけれども、いずれイツキ自身の口からさやかに語られるのであろうと思わせるものになっている。
読者の期待通りに物語が終わり、読後にモヤモヤした感じを残さない爽やかさが実に良い。 穏やかな空気感に包まれた小説である。