khurata’s blog

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蒲生邸事件 (宮部みゆき・著)

<この記事は普段フィクションをほとんど読まない私が作者や作品などの情報・評判を全く知らずに、ただ作品だけを読んで好き勝手に書く読書感想です>

 北関東出身で大学受験浪人一年目の「孝史」は、宿泊したホテルの火災がきっかけで、信じられない一週間を過ごすはめになる。 それはわずかな日数の出来事ではあったが、彼の父をして「大人になりやがった」と言わしめるほど、孝史の考え方や人生観に強く深い影響を与えずにはおかないものだった。

 本来ならば、一週間のあいだ何も知らずに「ただ戻ってくるだけ」だった筈なのに、「現代の18歳」の好奇心と恋心は、それを許さなかった。 結果、孝史は自分と全く関わりの無い人死にに巻き込まれ、そこで生涯を掛けた一目惚れとミステリーを並行体験する。

 複雑な筋立てだが、全てのピースが組み合わさった時の読書快感は見事。

 物語の終盤で、孝史は自分が体験した事の意味を深く噛みしめる。 そのくだりは読者にも静かで深い感慨を呼び起こす。 思えば、主人公の「孝史」という名前は、著者から読者へのプレゼントであるのかも知れぬ。 

蒲生邸事件 上 (文春文庫)

蒲生邸事件 上 (文春文庫)