khurata’s blog

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半落ち (横山秀夫・著)

<この記事は普段フィクションをほとんど読まない私が作者や作品などの情報・評判を全く知らずに、ただ作品だけを読んで好き勝手に書く読書感想です>

 一人息子を病魔に奪われ、認知症の進んだ妻を自ら殺め、血縁と呼べる者は実質上誰も居なくなってしまった主人公「梶」警部。 もはや生きる意味も持たないと見える梶は妻殺害を自首してくるが、或る一点だけは警察にも検察にも語ろうとしない。 つまり「完落ち」ではないのだが、司法の組織の論理が優先された結果、梶は「半落ち」のまま刑務所へ投獄されるに至る。

 梶と直接接した刑事、検事、判事らは、誰も秘密を解き明かす事が出来ない。 梶が秘する思いは、もはや誰にも分からないのか……法を守る立場であっても、人を救うために、時として法を越える、そうした人々の行動は、梶の真意に迫ろうとする思いが導き出したもの。 それが読者の心に響くと共に、それでも尚動かされない梶の決意の重さ、それは妻と子の命の重さに加え、警部という自らの職責の重さから来るものなのだが、これもまた読者の心にしっかりと伝わってくる。 梶の清廉な覚悟、「人間五十年」という『敦盛』の一句に託した心情が、読者の心を深く打つ。

 ラストシーンで、青年が梶に向かって言う、子供でも知っている何の変哲も無い言葉、それがこれほど大きく心を揺さぶる小説も、そう無いであろう。 

半落ち (講談社文庫)

半落ち (講談社文庫)