khurata’s blog

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永い言い訳 (西川美和・著)

<この記事は普段フィクションをほとんど読まない私が作者や作品などの情報・評判を全く知らずに、ただ作品だけを読んで好き勝手に書く読書感想です>

 TV出演もこなす売れっ子作家「津村啓」こと「幸夫(さちお)」が、突発的事故で妻を失ってからの数ヶ月が描かれる。 それ自体は悲劇のはずだが、他人との感情のやり取りを煩わしいとして逃げてきた幸夫にとって、それはひと時の解放的な時間でもあった。 しかし同じ事故で妻を亡くした男の子供達との交流の中で、幸夫は何かに気付いてゆく。

 その日その日の「生」を真正面から何のてらいも無く生きる小6の「真平」と4歳の「灯」ちゃん兄妹の姿を通して、幸夫はこれまで避け続けてきたことや、妻に対して自分がどうであったかを深く内省するようになってゆく。

 おそらく彼は、この後の人生を、「永い言い訳」と共に生きてゆくのだろうし、この後に彼が書く小説は、多分それまでよりつまらないものになってしまうのかも知れない。 それでも、幸夫はそれを「選ぶ」のである。

 本作は、人と人との間の情や愛を避け続けてきた男を通じて描かれる、情や愛への讃歌である。 こう書くと、重い性質の小説のようだが、実に細かい描写で成り立つユーモラスな場面が所々に有り、どうしたって笑ってしまう。 幸夫が出てくる場面は1行目からして可笑しいし、鼻水の執拗な描写や、「ちゃぷちゃぷローリー」のくだりなども、本当に可笑しい。 灯ちゃんの4歳児としての言動描写も、実にリアリティに満ちていて唸らせる。 細かい描写で笑いを取るのは、女性作家の得意技なのであろうか。 

永い言い訳 (文春文庫)

永い言い訳 (文春文庫)