khurata’s blog

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第三の時効 (横山秀夫・著)

<この記事は普段フィクションをほとんど読まない私が作者や作品などの情報・評判を全く知らずに、ただ作品だけを読んで好き勝手に書く読書感想です>

 表題作を含む6篇の短篇集。 各短篇は「F県警」捜査第一課が事件に取り組む様子を時系列に描いている。 各短篇の事件それぞれがミステリ性の高いものであり、加えて、一課配下の3つの班のせめぎ合い、すなわち班の中、班の間、上下の人間関係、各刑事の心情が濃やかに描かれ、いずれも短篇である事が惜しいくらいの出来。

 各篇とも甲乙付け難いが、やはり表題作『第三の時効』における二班班長「楠見」のキャラクターがひときわ強烈。 楠見を中心とする短篇は6篇中この1作しか無いにも関わらず、その印象は極めて強い。 冷酷かつ頭脳明晰な男が、「司法」の側に立つとどうなるのかを見事に描いている。

 個人的には『ペルソナの微笑』で、剽軽な刑事「矢代」が容疑者を1対1で追い込んでゆくクライマックスシーンは、古典的名探偵ものを見ているようで良かった。 容疑者と矢代はある意味で共通した「被害者」なのだが、そうした被害を封じようとする矢代が、過去の被害経験を利用しようとする容疑者に対して強く憤る描写は圧巻である。 

第三の時効 (集英社文庫)

第三の時効 (集英社文庫)